「2番打者」に求められる役割は何なのか。東京ヤクルトスワローズにおける2番打者の変遷と、各監督の考え方について。現代野球で勝つための「2番打者」の使い方を考察する。
目次
ヤクルトの2020年シーズン2番打者
2020年に東京ヤクルトスワローズの新監督に就任した、高津臣吾 監督は、山田哲人 を2番で起用していくと明言し、練習試合でも山田がスタメン出場した試合は全試合2番での起用になっている。
山田哲人と言えば、過去に本塁打王を獲得した言わずもがなの強打者だ。一方で、盗塁王3度、トリプルスリー(3割30本30盗塁)3度など、走力の面で抜群に優れており、出塁能力、長打力、走力どれをとっても最高峰の打者と言える。
文字通りの最強打者を「2番打者」に据える意図とは何なのか。本項では「2番打者」にまつわる歴史や事例と共に振り返っていこうと思う。
ヤクルト歴代2番打者の変遷
下記表は、ヤクルト各年ごとに2番で最も多くスタメン起用された選手の一覧だ。
表を見ると、宮本慎也、田中浩康らの犠打が得意なタイプのいわゆる「繋ぎの2番打者」の存在が目立つ。
ヤクルト歴代2番打者
表:各年のスタメンにおいて最も多く2番としてスタメン出場した選手
年度 | 選手名 | 2番スタメンの回数 | 監督 |
---|---|---|---|
2019 | 青木宣親 | 91 | 小川淳司 |
2018 | 青木宣親 | 86 | 小川淳司 |
2017 | 山崎晃大朗 | 47 | 真中満 |
2016 | 川端慎吾 | 58 | 真中満 |
2015 | 川端慎吾 | 70 | 真中満 |
2014 | 上田剛史 | 56 | 小川淳司 |
2013 | 上田剛史 | 76 | 小川淳司 |
2012 | 田中浩康 | 65 | 小川淳司 |
2011 | 田中浩康 | 121 | 小川淳司 |
2010 | 田中浩康 | 103 | 高田繁・小川淳司 |
2009 | 田中浩康 | 61 | 高田繁 |
2008 | 宮本慎也 | 60 | 高田繁 |
2007 | 田中浩康 | 84 | 古田敦也 |
2006 | アダム・リグス | 123 | 古田敦也 |
2005 | 宮本慎也 | 82 | 若松勉 |
2004 | 宮本慎也 | 80 | 若松勉 |
2003 | 宮本慎也 | 140 | 若松勉 |
2002 | 宮本慎也 | 114 | 若松勉 |
2001 | 宮本慎也 | 129 | 若松勉 |
2000 | 土橋勝征 | 70 | 若松勉 |
1999 | 宮本慎也 | 86 | 若松勉 |
1998 | 真中満 | 80 | 野村克也 |
1997 | 辻発彦 | 52 | 野村克也 |
1996 | 稲葉篤紀 | 40 | 野村克也 |
1995 | 荒井幸雄 | 42 | 野村克也 |
1994 | 荒井幸雄 | 74 | 野村克也 |
1993 | 荒井幸雄 | 43 | 野村克也 |
1992 | 城友博 | 43 | 野村克也 |
1991 | 笘篠賢治 | 57 | 野村克也 |
1990 | 柳田浩一 | 93 | 野村克也 |
チームの強さと2番打者を固定率の高さに相関があるかといえば、必ずしもそうでもない。野村政権の97年には流動的にオーダーを組み替えていたが、チームは黄金時代が続いていた。
とはいえ、近年だと2番打者がほとんど固定できなかった2017年は記録的な勝率の低さだったのもあり、2番打者に留まらずスタメンメンバーをある程度固定できるのが強いチームに必須ともいえる。
監督による「2番打者」の役割
真中満の考え。打線の軸は「4番打者」
解説者の真中満(2015~2017まで監督を務めた。2015年には川端慎吾を2番に据えてリーグ優勝を果たす)は、打線を組む際に4番打者を真っ先に決めるという。4番にポイントゲッターとなる強打者を配置し、それを軸にクリーンナップを決めるそうだ。
その真中満は監督就任した2015年から、2番に首位打者に輝いた川端慎吾を据えた。これは開幕からオーダーを試行錯誤した結果、シーズン中盤から固定された結果なのだが、2番川端・3番山田・4番畠山という並びはいずれも打撃タイトルを獲得する活躍をあげた。
川端は天才的なバッティング技術と裏腹に、犠打などの小技はあまり得意でなく、2015年シーズンの犠打はわずかに「2」。それでも、リーグトップの195安打、.336を記録し、打ってしまえば自己犠牲など必要ない野球を体現したかたちだ。
古田敦也の考え。「2番打者はバントをさせるべきではない」
先ほどの表を見ていると、2006年のリグスが最も多く2番打者に起用されていることが際立つ。リグスは前年に14本塁打を放ち、この年も39本塁打を放つなどの活躍を見せた長距離砲である。実際に、リグスは在籍4年間で一度も犠打を記録していない。
このリグスを2番に起用した理由について、監督を務めていた 古田敦也 は「2番打者にバントされるより、強打者を置かれたほうが守っていて嫌だから」と話す。
リグス本人も「古田監督はかなり時代を先取りした考え方をしていた」と話すように、2番打者には送りバントだけではなく右打ち等のケースバッティングが求められる一方で、リグスは持ち味のパンチ力を生かすために、かなり自由に打つことを求められたという。
2006年シーズンは2番リグス3番ラロッカ4番ラミレスという、古田(Furuta)のFにちなんで命名された「Fブラザーズ」トリオは大いに活躍し、大量得点に結びつくことも多かった。
しかし、この布陣も長くは続かなかった。
翌2007年にはプロ3年目の田中浩康が台頭し、リーグトップの51犠打を記録するなど、「繋ぎの2番打者」に徹することになる。前年活躍したリグスは2番での出場が1試合もなく、古田監督もこの年限りで退任することになった。
攻撃的2番を敷いた布陣も1年限りで解かれることになり、後を継いだ高田繁監督の下、田中浩康がほぼ2番に固定されることになる。結局、このときの「2番強打者」は長期にわたって浸透することはなかった。
野村克也の考え
90年~98年までヤクルトの監督を務め、4度のリーグ優勝、3度の日本一と黄金時代を築き上げた野村克也(2020年2月11日没)は、打順ごとに求められる役割が存在すると説いた。
「自由に打つことが許される」3番~5番のクリーンナップに繋ぐため、2番打者には自分のバッティングを封じて犠打や右打ちなどの繋ぎの役割を求めた。
事実、野村が指揮をとった時代は3~5番はシーズン通して固定されることが多かったものの、2番打者はほとんどのシーズンで流動的だった。
「選手には常に考える野球をさせる」がモットーだった野村の考えに基づくと、様々な選手を2番打者に置くことで、自分の役割を考えさせる習慣を根付かせていたのだろう。
ちなみに、野村の教え子だった辻発彦(西武監督)は強力西武打線において、2番に源田壮亮という繋ぎの2番を置いているが、古田の教え子だったラミレス(DeNA監督)は2番にソトなどの長距離打者を置いた、いわゆる「2番強打者論」者である。
もし、ラミレスの来日がもう少し早く、野村の教えを受けていればこのDeNAの2番強打者の戦略は実現していたのだろうか。興味深いところである。
2番強打者論とは
2番打者には前述した宮本慎也や田中浩康のような「繋ぎの2番」としての役割を求められることが多く、この考えに基づくと1番打者とも3番打者とも独立した存在とも言える。
しかし、近年では3番以降を打つ強打者、或いは1番を打つ出塁率の高い打者と似たタイプの選手を配置し、シナジー効果を生むことが多い。
青木宣親や坂本勇人(巨人)のように強打を基本としながらも、状況に応じてケースバッティングのできる器用な打者もいる。一方で、ソト(DeNA)や大田泰示(日本ハム)のように長打で攻撃する打者も多い。
確実に1点をとることよりも、大量得点をとることを目指して、「得点期待値」を上げてしまおうという考えが基本線だ。
これが、バントをせず、長打でランナーを進める「2番強打者論」の登場である。
球界全体のトレンド
前述した「2番リグス」を通年で採用した古田監督の下でもプレイした、DeNAのラミレス監督が「2番・ソト」或いは「2番・筒香」「2番・宮崎」とタイトルホルダーを配置し、チームを2位に躍進させたのは印象深い。
セリーグでは2019年に優勝した巨人も、MVPを獲得した坂本を2番に固定してチームを5年ぶりの優勝に導いた。巨人では春季キャンプでは2番・丸、3番・坂本という打順を想定されていたが、丸が2番での適応に苦労したため、坂本が2番に収まったという経緯がある。2番に長打力に優れた強打者を配置するとはいえ、その中で打撃に制約が出てしまうので、個人による適正も大いに影響しているだろう。
一方で、パリーグでは日本ハムで右の強打者・大田泰示が2番を務めるものの、上位の西武やソフトバンクはそれぞれ源田、今宮ら犠打を得意とする「繋ぎの2番打者」でチームを勝利に導いた。
パリーグでは指名打者制を敷いており、先取点がゲームを優位に運ぶうえで重要であることも関係していそうだ。
メジャーリーグのトレンド
メジャーリーグの2番打者といえば、マイク・トラウト(エンゼルス)が代表だろう。トラウトはシーズンMVPを3度受賞し、北米スポーツ史上最多額の12年4億2650万ドルという条件で契約した、MLB最強スラッガーである。
元々、送りバントを嫌う傾向にあるメジャーリーグだが、トラウトに限らず、アロン・ジャッジ(ヤンキース)やピーター・アロンゾ(メッツ)など本塁打王を獲得するほどの長距離砲が2番打者を務めることが多い。
「クリーンナップ」という概念はもう古い?
「クリーンナップ」とは、溜まったランナーを一掃する、「3,4,5番」のことを指す。ちなみにクリーンナップは和製英語では、メジャーリーグにそのような考え方はない。
日本のプロ野球においては、自己犠牲の精神で走者を進めることが「美徳」とされてきたが、近年のセイバーメトリクスの発達によってこの考えが覆されつつある。
セイバーメトリシャンのトム・タンゴが執筆した『The Book』によると、「得点の期待値」を上げていくという観点では、3~5番に強打者を固めるのではなく、単に打席が多く回ってくる1番、2番に(出塁能力に長けた)強打者を配置するべきであると説いている。3番打者は2死走者なしで打順が回ってくることも多く、3番よりも2番に強打者を置くべきという理論だ。
先取点を確実にとることの精神的優位を得ることも重要だが、長いシーズンを戦うにおいて、より得点期待値の高い手段を選択することが重要になってくる。
今後の展望
2番最強打者論はここ数年で登場した理論ではなく、現在でも試行錯誤をしながら2番の
高津監督が打ち出した「2番・山田哲人」が成功するかどうかは、チームの怪我人の数にも影響してくるだろうし、未知数な部分が多い。
大事なのは、「2番にはバントをさせておくもの」という固定観念を捨て、柔軟にチームに合った戦略を練っていくことではないだろうか。
外部リンク
公式フォトギャラリー
https://www.yakult-swallows.co.jp/photo/
スタメンデータベース
脚注
2020/06/15
yoshi-kky