【球団経営について考察】ヤクルトがいつの間に金満球団になってしまった件~山田哲人の残留、村上宗隆の最年少1億円到達

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山田哲人の残留、村上宗隆の最年少大台突破で最下位にも関わらず異例の暖冬でホクホクのオフシーズンとなっている東京ヤクルトスワローズの2020年オフ。一体現場には何が起こっているのか、球団経営の側面から考察していこうと思う。

最下位なのに?異例の暖冬

球界の大スター・山田哲人

球界の大スター・山田哲人が7年40億円で残留!!!

来季40歳を迎える青木宣親に新しく3年10億円の巨大契約提示!!!

球団史上初めて全試合4番に座った村上宗隆が市場最年少で年俸1億円に到達!!!

連日景気の良いニュースが飛んできており、ストーブリーグの主役とも囁かれているヤクルト球団。

ファンとしては1年間活躍してくれたスター選手に最大限の評価をしてくれるのは大変喜ばしいことなのだが、一方で「おサイフは大丈夫なんだろうか」と勘繰りたくなる。

Twitterで「最下位だけど大規模な補強をした」という発言をしたところ、想定以上の反響がきた。

今回は球団経営の面から今季のヤクルト暖冬の原因を考えてみたいと思う。

ヤクルト球団の経営を考察しよう

さて、ヤクルト球団の財務諸表を見ていこう。

財務諸表の分析をする際に、上場企業の場合は企業のIR情報から決算書類を入手できる。決算書類には必ず財務諸表が公開されているので、それを見て分析をするというわけだ。

しかし、ヤクルト球団はヤクルト本社の子会社であり、上場企業ではない。そのため、財務情報の開示義務はなく公告されている範囲にとどまる。後は親会社の連結決算の際に球団経営の情報が記載されていれば、そこから状況を推察することができる。

なお、IRとはInvestor Relationsの略称で、要するに投資家向けに財務状況を説明する資料である。

ヤクルト本社のIR情報

まずは比較的入手しやすいヤクルト本社のIR情報を見ていこう。IRの中の決算短信から財務状況を閲覧することができる。ヤクルト本社にとってはヤクルト球団も連結決算の範囲に含まれるため、少なからずヤクルト球団の経営状況を知ることができる。

ヤクルト本社のIR関連情報から簡単にアクセスできるので、興味ある方は閲覧してみてほしい。

2021年3月期中間発表(2020年4月~2020年9月)にはヤクルト球団の経営情報も記載されている。コロナ禍によるヤクルト球団の経営情報として以下のような言及がされている。

その他事業部門に含まれるプロ野球興行においては、開幕延期や無観客試合等による入場者数の減少により、ほぼ当初の想定どおりの業績悪化を見込んでいます。

21_02_hosoku.pdf (yakult.co.jp) 決算短信 | 財務・業績 | IR情報 | ヤクルト本社 (yakult.co.jp)

要するに、減収はしているが想定内であり、カバーできる範疇であくまで今季の特例だ、という見解だ。

ヤクルト球団の決算情報

さて、ヤクルト球団の決算情報だが前述したようにヤクルト球団はヤクルト本社の子会社であり、単体でのIR情報は公開されていない。

無料で官報情報を閲覧できる「官報決算データベース」によると以下のような決算情報が公開されている。

https://catr.jp/settlements/33de8/145308

企業の経営成績である「損益計算書」は公開されていないのだが、一年の業績が表れる当期純利益が記載されている。

2019年12月期、要するに2019年シーズンの当期純利益は100,652千円、つまり1億円の営業黒字だ。ちなみにヤクルト球団の1億円は選手の年俸で言うと石川雅規や坂口智隆らの年俸とイメージできる。

最下位で終わった2019年だったが、営業成績で言うと単体黒字という結果である。これは乱暴に言ってしまうと親会社であるヤクルト本社の資本が無くても自走して球団経営が賄えるという計算になる。

2020年シーズンは黒字経営に終わった昨シーズンからの戦力上澄みもなく最下位に終わったが、ホクホクの暖冬オフが実現できているのは昨シーズンの黒字経営が成しえたことだろう。

ヤクルト本社からの資本介入はある?

山田哲人の残留にあたってはヤクルト本社からの全面バックアップが行われると報じられた。

このように、球団のみならずヤクルト本社のPR戦略にも大いに影響を与えるほどのスター選手にはヤクルト本社からのバックアップがされているとみられる。

「みられる」と推測の表現である理由は、本社からの資本介入がどれほどのものかは推測の域でしかないためである。

球団経営は赤字であっても、本社から「広告宣伝費」の意味合いで資本が投じられるのが常であった。山田哲人のような特別なスター選手は別として、球団経営が単体として黒字経営が出来ているのであれば今オフのような大胆な補強策も可能なのだ。

ちなみにヤクルト本社の総資産は6,278億円(連結)。ヤクルト球団の総資産は32億円。企業の規模でいうとおよそ200倍の規模である。

コロナ関連費

2020年シーズンの球団経営に避けて通れないトピックはコロナウイルス感染拡大防止による対策費用であろう。

ヤクルト球団においても同様で、今季は14試合の主催試合を無観客で開催。残りの試合も入場者上限を設けての開催であったため、球団の収入源である入場料収入は大幅に削減された。

さて、ヤクルト本社では「新型コロナウイルス関連費」という名目で11億円の特別損失(企業の経営に関わらない要因での損失)が計上されている。

これは私の想像の域を出ないのだが、ヤクルト球団のコロナ禍での営業減収の一部をヤクルト本社が費用として計上していることはないか。もしそうであれば、コロナ禍での黒字経営も可能で、このオフの補強に繋がったとの見方もできる。

2020年の決算は?

さて、2020年の決算だが2020年12月末に決算が終わり、決算情報が公表されるのは翌春ごろだろう。

コロナ禍による営業赤字は避けられない状況ではあるが、今オフの暖冬の背景となった営業成績がどのような状態になっているか今から興味深い。

おわりに

コロナ禍による激動のシーズンであるにも関わらず、暖冬のオフが実現している2020年の東京ヤクルトスワローズ。

プロ野球選手はファンあってこそのもの」と言うが、球団経営の柱はファンが球場に行くこと、グッズを買うことによる売上である。

我々が汗水たらして得て働いて得た金で、応援しているチームの財布が潤い、選手に還元される。それはファン冥利につきるものではないだろうか。

今回の大補強が好成績に繋がれば、来季の更なる補強あるいは育成体制の強化になるだろう。

チームが強くなるためには言うまでもなくお金が必要だ。そのお金を払うのはファンである。ファンは強くなってほしいと願うのであれば、どんどん球場に行ってお金を使ってほしい

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東洋経済新報社

脚注

2020/12/08

yoshi-kky