【書評】高津臣吾『一軍監督の仕事』|日本一に輝いた2021スワローズを監督目線で振り返る

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4月13日、光文社新書から『一軍監督の仕事~育った彼らを勝たせたい~』が発売された。高津臣吾の名義で新書が発刊されたのは、2018年の『二軍監督の仕事~育てるためなら負けてもいい~』以来のこと。

前回から大きく変わったことは、高津監督の肩書きが「2軍監督」から「1軍監督」に変わったこと。そして、2021年に全国のヤクルトスワローズファンが熱狂した日本一を達成し、監督として大きな栄光を勝ち取ったことである。

本項では、同著の紹介および書評を記したいと思う。

高津臣吾『一軍監督の仕事~育った彼らを勝たせたい~』

本書では、日本一を勝ち取った2021年ペナントシーズンの体験談をベースにして構成されている。

  • 2021年ペナントレースの総括
  • 2021年日本シリーズの総括
  • 2021年を戦ったスワローズ選手たちについて
  • 選手育成とマネジメント
  • スワローズ・ウェイ

最下位に沈んだ2020年の苦闘、日本一を勝ち取った1年間の戦いを監督目線で書かれている。

また、前著『二軍監督の仕事~育てるためなら負けてもいい~』を踏まえ、高津監督自身のチームマネジメント、育成論に関する考えが紹介されている。

また、「絶対大丈夫」が生まれたエピソードなど、ヤクルトファンとしては本著で初めて知る情報も満載だ。

2021年シーズンの総括

日本一を勝ち取ったスワローズの戦いは最初から順風満帆ではなかった。

思えば、2020年シーズンオフ、山田哲人小川泰弘、石山泰稚のFA保有者3名が残留を表明したことから始まった。

  • キャンプインでの古田敦也臨時コーチの教え
  • 開幕カード3連敗で始まったペナントレース
  • 2番捕手・中村悠平の考え
  • クローザー石山の配置転換
  • ターニングポイントとなったゲーム
  • 絶対大丈夫の誕生秘話

どれも2021年のキーとなる出来事であったが、これらが高津監督目線で語られている。

無敗で勝ち上がった10連戦のエピソード、マジック点灯がかかった神宮での阪神戦、そして優勝を決めた10月26日の横浜スタジアムでのゲーム。

今だから明かせるエピソードなど、激動の2021年シーズンを監督目線で振り返る内容となっている。

2021年日本シリーズの総括

時は移り、日本シリーズでの戦いへ。

高津監督は現役時代に5度、コーチ時代に1度日本シリーズを戦っており、日本シリーズの戦い方については経験に基づいた知見が豊富である。

高津監督といえば投手陣、特にリリーフ陣の起用に最大限の配慮をしていたが、クローザーであったマクガフについてのエピソードが印象的であった。

マクガフ自身はシリーズで2敗しているのだが、高津監督の絶対的な信頼と、それに応えるマクガフの反骨心が日本一を呼び込んだのだと思う。

日本シリーズ第6戦のマクガフ続投に関する裏話など、初めて明かされるエピソードが紹介されている。

個人的に印象深かったのが、日本一を決めた瞬間の高津監督の言葉

12回表が終わったが、僕はポカンとしていた。

「あれ、12回裏抑えたら、優勝じゃん」

引用:一軍監督の仕事~育った彼らを勝たせたい~

「そう!そうなんだよ!」

思わず強く共感してしまった。

極寒の神戸決戦、監督の言葉が現地で観戦していた私の感想とダブっていて、当時の激戦が本を通じて私の脳裏にフラッシュバックしたようであった。

スワローズ選手たちについて

高津監督と共にシーズンを戦い抜いたスワローズ選手のことが記されている。

中でも高津監督が信頼を置いていたのが、キャプテン山田哲人の存在であった。

打撃にフォーカスされがちな山田だが、本著では主に守備のテクニカル的な部分が紹介されている。

山田のセカンド守備はどこで優れているのか、プロならではの目線で再認識させられた。

高津監督の考える選手育成とマネジメント

二軍出身監督ならではの育成と勝利の「二兎を追う」考え方が特徴的である。

ハングリー精神、前向きにポジティブな考えが必要。それを体現したのが、「7回の男」の座を掴んだ今野龍太だったという。

現代野球において、根性論は忌避されがちだが、プロとして成功するためには強気のマインドセットが重要である。

スワローズ・ウェイと野村克也イズム

高津監督を総括するうえで欠かせない人物が故・野村克也さん(2020年2月11日没)と古田敦也さんの存在

本著では「野村監督の遺伝子」として紹介されている。

高津監督にとって、野村克也さんは現役時代の大半を監督と選手という間柄でプレーした恩師であった。

野村野球の原点は「観察する力」「発見しようとする力」だという。

高津監督は野村克也さんのID野球を基に、ビッグデータの技術を活用した戦略がとられている。

高津監督は数値を用いた分析が好きなようで、野村ID野球とビッグデータを組み合わせた戦術をとっているとのこと。

高津監督の目指す「スワローズ・ウェイ」とは安定した強さだという。

ヤクルトは1990年代に黄金期を過ごしたが、毎年Aクラスにいれるというチームではなかった。

高津監督の目指すスワローズ・ウェイが実現できるか、2022年以降も注目していきたいと思う。

所感-監督目線で2021年シーズンを振り返る

本著は、スワローズファンが2021年シーズンを振り返るための一冊である。

スワローズファンが勝利の美酒に酔いしれた2021年シーズン。

本著を読むことで、当時の出来事を振り返り、監督目線による新たな気付きにも出会える。

スワローズファンが2021年シーズンの思い出を保存されている一冊と言ってもいいだろう。

スワローズの成長は何か、スワローズの課題は何か、この一冊を読めばスワローズの戦いを見るのがますます楽しくなるだろう。

ちなみに、高津監督が同著で口を酸っぱくして言っていたのが「左投手の成長」であった。

高橋奎二がエースとして台頭してきているものの、長谷川宙輝や寺島成輝、山野太一、そしてドラフト1位で獲得した山下輝が台頭して高津監督を喜ばせる活躍をしてほしい。

商品情報

一軍監督の仕事~育った彼らを勝たせたい~ (光文社新書)

本の長さ254ページ

出版社:光文社

発売日:2022/4/12

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あとがき

本書の発売日は4月12日、ヤクルト1軍は松山での遠征中であった。

私自身も松山坊ちゃんスタジアムへ観戦に訪れており、電子書籍「Kindle」で購入し、帰りの機内で購入した。

普段は紙の本で読むタイプなのだが、新書が買えないときに電子書籍で調達できるのは便利だと感じながら、読ませてもらった。

あとは、電子書籍だと嵩張らないのが良い。

脚注

2022/4/15