セリーグはDH制を導入するべきか?日本シリーズで巨人が惨敗、広がるセパ格差で改めてDH制の是非を問う

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2020年の日本シリーズはソフトバンクが4連勝とストレートで巨人を下し、総得点26対4という数字通りの圧勝で幕を閉じた。圧倒的なセパの実力差を前に再燃したのが「DH制度」の導入是非という議題である。本項ではセパの格差がDH制度を起因しているのか、DH制の是非を考えていこう。

DH制の動き

現役時代に強打者として活躍した畠山和洋(公式フォトギャラリーより)
現役時代に強打者として活躍した畠山和洋(公式フォトギャラリーより)

2020年の日本シリーズはパリーグ覇者のソフトバンクがセリーグ覇者の巨人を4連勝で圧倒した。総得点はソフトバンクの26得点に対して巨人は4得点。最近10年間で日本シリーズをパリーグのチームが制したのは10回中9回(ソフトバンク7回、楽天1回、日本ハム1回)。数字通りにパリーグが実力でセリーグをねじ伏せていると言えるだろう。

2020年12月14日、セリーグの理事会で巨人が提言した「2021年シーズンのDH制度の導入」は却下され、来シーズンにセリーグがDH制度を導入するのは見送りとなった。

巨人がDH制度を導入したのは今回が初めてでなく、昨年オフにも巨人の原辰徳監督がDH制度の導入を公に提言していた。昨シーズンも巨人はソフトバンクに惨敗しており、セパ格差の原因をDH制度の有無に責任転嫁していたのだ。

では、セパの実力差の理由は一概にDH制度の有無にあるといえるのだろうか。

DHとは

DHとはDesignated Hitterの略称で、日本語では指名打者と言われる。DH制のある野球では投手が打席に立つ代わりに「指名された打者」が打席に立つ。端的に言うと投手を含めた9人で戦う野球ではなく、9人の野手と1人の投手で戦う野球ということになる。

DH制のメリット

  1. 投手の代わりに野手が打席に立つので攻撃力が増す
  2. 「DH専任」の役割により野手の出場機会が増える
  3. 投手が打席に立たないので代打による投手交代がない
  4. 投手が打席で死球を受けて故障することがなくなる

以上に上げたメリットのようにDH制度は攻撃面で有利になることが多い。たしかにパリーグに強打者が多いのはDH制度の恩恵を受けているのが大きな要因といえるだろう。

また、DHとして指名された打者は守備に就く必要がない。守備に就くことが難しいベテランや故障を抱えている選手は打撃に専任することで打撃パフォーマンスを最大限に発揮できるといえるだろう。

守備面でもメリットがあり、投手が打席に立たないことで継投が大きく異なっている。DH制のない野球では好投をしていても中盤以降に好機が訪れた場合に代打を出されて降板というケースがある一方で、DH制のある野球では投手は代打を出されて降板というケースはなく、投球に専念できる。

投手が打席で故障をするリスクが無いのも大きなメリットといえる。場合によっては死球による報復を気にせずにインコースを突きやすいというメリットもあるだろう。

DH制のデメリット

  1. 「野球は9人でやるべき」という従来の価値観に反する
  2. 投手交代の戦略の幅が狭まる
  3. 投手が打席に立つ機会が減る

古くからの野球ファンには「野球は9人でやるべき」という価値観が根強い。たしかに野球の元祖であるベースボールにはDH制度という概念はなく、投手も打席に立つことが常識とされていた。ちなみにDH制度が導入されたのは1973年にMLBのアメリカン・リーグが投高打低を解消するために取り入れたのが始めとされている。NPBでも1975年からパリーグで導入されて現在に至っている。

投手が打席に立っていると、どこで代打を出すべきかという野球の戦略に幅が出ている。見る者にとってはそういった駆け引きも野球の醍醐味としているのだろう。

投手が打席に立つ機会が減るのもデメリットに挙げられる。近年では大谷翔平(日本ハム→エンジェルス)の様な投打ともに抜群の才能に溢れた選手が投手と野手で活躍するために、DH制度を解除して登板日にホームランを放ったのは記憶に新しい。

セリーグにDH制を導入するべきか?

福岡PayPayドーム

話を元に戻すと、セリーグにDH制を導入するべきかどうかは以上に挙げたメリット・デメリットを考慮する必要があるだろう。

DH制導入でセリーグは変わるか

DH制度のメリットを見ると、DH制のある野球の方が選手は逞しく成長する傾向にあるようだ。

規定投球回数に達した投手はセリーグの6人に対してパリーグが8人と上回っている。DH制のあるパリーグでは打線の9人に投手がおらず、すべての打者に息つく間もなく神経をとがらせる必要があるのだ。

DH制度が投手と野手ともに実力を上げられる環境であることは間違いないだろう。

メジャーリーグの実例

メジャーリーグ(MLB)では先にあげたように1973年にア・リーグがDH制を導入しており、現在までア・リーグがDH制あり、ナ・リーグがDH制なしという体制になっている。なお、2020年はコロナ禍の特例でナ・リーグもDH制ありでシーズンが進んだものの、2021年の状況は不透明である。

MLBではア・リーグとナ・リーグでNPBのように戦略格差があるという感じはない。直近10年のワールドシリーズではア・リーグが4回、ナ・リーグが6回とむしろDH制のないナ・リーグが優位に立っている。

セパの差はDH制が大きいという主張

巨人の主張はタイミング的にも「セパの差はDH制度のせいだ」と言っているように聞こえてならない。

たしかにDH制度はセパの実力差の原因の1つになっていることは間違いない。しかし、セパの差はもっと根本的なところにあるのではないだろうか。

セリーグを制した巨人はリーグ戦を圧倒的な戦力で制しながら、日本シリーズでは歯が立たなかった。「セパの実力差」を敗因の1つに挙げておきながら、オフシーズンにはFA補強でライバルチームから主力を引き抜いた。戦力面ではますます格差が広がっているのが現状だ。

一方で、日本シリーズを制したソフトバンクは充実した育成施設を整えており、リーグ内で高い競争を促している。こうしたこともセパの実力差の背景として考えられるだろう。

セパの実力差を埋めるためにはDH制度だけでなく戦力格差、リーグ内での結束を高めて相乗効果で実力を上げていく必要があるだろう。

私見

私見としてはセリーグはDH制を導入するべきであると考えている。

スポーツというのは時代のニーズに合わせてルールは変えていくべきだ。古い考えは必ずしも最適な方法であるとは限らず、DH制の有無によって戦力差が生じるのであればDH制を統一して戦力差を拮抗させるべきである。

近年では「申告敬遠」や「コリジョンルール」など野球の常識を覆すようなルール改正が行われた。それらも試合時間を短くすることや選手の安全を守るために必要なルールであり、現在では違和感なく野球の一部として受け入れられている。

また、DH制を導入する最大のメリットはDHで出場する野手の出場機会が増えることだと考えている。十分な打撃能力がありながら守備に就くことが難しいベテラン選手などは更に選手寿命を延長できるだろう。名選手を少しでも長く見たいというファンの要望も叶えられるのだ。

ただし、DH制を導入したからといってセパの差がただちに埋まるとは思えない。セパ格差を埋めるためには、リーグ内のチーム同士で互いに助け合っていくという根本的な解決が望まれるだろう。

脚注

2020/12/21

yoshi-kky