山田哲人が国内FA権を取得した。ヤクルトファンからすると、ついに取得してしまった、という方がしっくりくるだろうか。本項では、山田哲人のFA動向について、過去の出来事を振り返りながら考察したいと思う。
山田の経歴やプロフィールについては、下記選手名鑑ページを参考にされたい。
目次
山田哲人の進路選択について
山田の進路について考察する前に、どんな選択肢があるかを整理しよう。
1.国内FA権でNPB他球団に移籍
FA権とは、NPB他球団と自由に移籍交渉が出来る権利である。山田が今季獲得した国内FA権は、NPB球団に限定されたもの。
移籍には補償が発生し、山田の場合はヤクルトの年俸ランキング1位であるため、「Aランク補償」として「旧年俸の0.5倍の金額+補償選手」あるいは「旧年俸の0.8倍の金額」が発生する。
2.今季オフにポスティングでメジャー移籍
今季オフにポスティングシステムを利用してのメジャー挑戦。
山田は順調に行けば来年海外FAを取得するため、このタイミングで山田がポスティングを直訴すれば、球団側も受け入れる可能性が高い。ただ、後述するようにコロナ禍によるMLB球団の財政難が予想されるため、厳しい契約になることが予想される。
3.来季オフに海外FAでメジャー移籍
新たに1年間ヤクルトとの契約を延長して海外FA権を行使してメジャーリーグへ挑戦する選択。
今季オフのポスティングシステムはMLB市場の動向から厳しいものが予想されるが、1年待てばMLBの移籍市場も状況が良い方向に変化する可能性が高い。
2021年には東京五輪が予定されており、山田が希望しているとみられる東京五輪で出場してからメジャーリーグへの移籍も叶えられる。
4.生涯ヤクルト
ヤクルトと複数年契約を結ぶ選択。
NPBでは則本昂大(楽天)、柳田悠岐(ソフトバンク)らがメジャー志望と噂されながら、FA権取得を機に所属球団と複数年契約を締結している。故障を抱えながらも、多額の契約金とプレーの場が保証される選択肢だ。
山田も慣れ親しんだ神宮球場でのプレーを望んで残留を決意する可能性は十分にある。ヤクルト球団も広告塔の柱となっている山田に関しては出費を惜しまないだろう。きっと。
山田哲人を巡る世論と山田本人の意向
プロスポーツは契約の世界だから、契約するチームと選手の意向、権利、金額色々な要素が重なって交渉になる。普通の生活をしているとまずお目にかかれない金額を巡る交渉の行方は、第三者から見て非常にエキサイティングなものだろう。
世間の声
まず、世間の声。山田レベルの大物がFA権を取得すると、マスコミが黙っていない。日本球界を代表するスーパースターの国内FA移籍となれば多くの国民が関心を示すことから、扇動的な見出しをつけて聴衆の興味を煽っている。
記事を見ると、金持ち球団と密約が済んでいるだの、国内移籍は既定路線だの、ありもしない記者の願望が平然と紙面を賑わしている。
「残留だと面白くないからFA移籍で世間を賑わせてほしい」が世間の反応だろう。
山田の意向
一方で、山田本人の意向はどうだろうか。
山田の考えは本人にしか分からないだろうし、本人も迷っているところかもしれない。山田本人はあまり公の場で口数が多い方ではなく、これまで権利の行使について言葉を濁してきた。
過去にFA移籍した選手は細かい発言の言葉尻をつかまれて非難されることも多く、山田もFA権についての発言には人一倍慎重になっているだろう。
今回、FA権を取得した際は「素直にうれしい。今はシーズン中なので、その時期になったらじっくり考えたい」(サンスポ)とコメント。この発言内容なら移籍しても残留しても後から言葉尻をつかまれることもない。これまで常にメディアの注目にさらされ続けてきた山田らしいコメントととれる。
https://www.sanspo.com/baseball/news/20200904/swa20090405020001-n1.html
メジャーへのあこがれ
国内FA移籍と同じく可能性があるのがメジャーリーグ移籍だ。山田のメジャーリーグ移籍についての可能性について見ていこう。
メジャーへの憧れ
WBCをはじめとする国際舞台でも活躍していた山田だが、幼少期から憧れにしているという野球選手がいる。西武・楽天などに在籍し、2003~2010年にはメジャーリーグでも活躍した松井稼頭央氏(現西武二軍監督)だ。
トリプルスリーという共通項を持つ両者だが、過去にはテレビ番組での共演も果たしている。2019年シーズン前に放送された「S-PARK」(フジテレビ系)では、カメラの前で松井稼頭央氏への憧れを語った。公言こそしなかったが、メジャーリーグ挑戦について含みを持たせるようなコメントであった。
メジャー市場
山田の意向がどうあれ、契約先がいないと成立しないのがプロスポーツの世界だ。メジャーリーグの移籍市場について見ていこう。
近年は大谷翔平(エンゼルス)が打者として派手な成績を残しているものの、2020年シーズンよりNPBからMLBに移籍した筒香嘉智(レイズ)、秋山翔吾(レッズ)は今のところ打率2割前後とNPB時代のような好成績を残せていない。NPBで好成績を残した打者の不振を鑑みると、日本人野手のメジャーリーガーの評価は厳しくならざるをえない。
更に、コロナ禍による観客入場収入が各球団の財政を大きくひっ迫していると見られている。MLB各球団においては例年よりも補強費に制限がかかるというのが現状だろう。
山田自身の体調不良や成績不振、コロナ禍によるMLB各チームの財政引き締めも相まって、今季ポスティングシステムを行使してのメジャー移籍は現実味がなさそう。
過去には青木宣親がポスティングシステムを利用してメジャーリーグ移籍を果たしたが、前年に移籍した西岡剛氏(当時ロッテ→ツインズ)の不振による日本人野手の市場評価が下がり、良い契約を勝ち取れなかった。(青木はポスティングシステムを経ての移籍にも関わらず、テスト生扱いと屈辱的な扱いを受ける。しかし、そこからのメジャーリーグでの活躍は周知の通り。)
山田にとっては、もう一年時間の経過を待ってから自身の市場価値が高まるのを待つのが現実的ではないだろうか。
おわりに
山田の移籍に関して大きな影響を与える人物は、間違いなく青木宣親だろう。
青木は、山田入団前に背番号1を背負ったミスタースワローズ。プロ2年目で首位打者を獲得し、早い段階でメジャーリーグへの思いを語っていた。2011年オフにメジャー移籍を果たした。2017年オフにはヤクルトへ電撃復帰し、山田と共に新旧ミスタースワローズとして今なおチームを引っ張っている。
今季は2番打者と3番打者としてコンビを組むことが多い両者だが、メジャーリーグでの経験、移籍にいたるまでのメンタル面も含めて、先だって経験している青木の存在は何よりも強いものだろう。
私的には、青木と同じく今年か来年にMLBに渡り、日本人最高の内野手としてどれほど山田がMLBの舞台に通用するかを見てみたい気持ちが強い。
華奢な体や、足を高く上げるフォームはMLBのプレイスタイルには合わないという意見も根強いが、青木の言葉を借りると『人生はチャレンジの連続』である。
山田はデビュー以来、数えきれないスーパープレーでヤクルトファン、野球ファンの度肝を抜くプレイを見せてくれた。日本国内に留まらず、世界で山田が羽ばたいてほしい。
日本のスーパースターが世界に羽ばたく姿を、是非この目に焼き付けたい。
脚注
2020/09/07
yoshi-kky