奥川が成功した投げ抹消とは何か?中10日ローテのメリットとデメリット

okugawa
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プロ野球の先発投手、特にローテーション投手では「投げ抹消」と呼ばれる登板間隔の管理をされることがあります。

投げ抹消は中10日以上の登板間隔を空ける際に有効な戦術です。2021年のプロ野球では高卒2年目のヤクルト・奥川恭伸投手が「投げ抹消」の戦術で9勝をあげ、チームの日本一に大きく貢献したことで話題になりました。

投げ抹消(中10日ローテ)には登板間隔を十分に空けられたり一軍登録を有効活用できるメリットがある一方で、デメリットもあります。それぞれ、詳しく見ていきましょう。

投げ抹消とは

2021年日本シリーズで完封、優秀選手賞を獲得した高橋奎二投手

投げ抹消とは、先発投手が登板と10日間以上の登録抹消を交互に繰り返すことです。通常の先発ローテ投手が中6日で登板するのが一般的であるのに対し、投げ抹消では中10日ローテで運用されることになります。

この背景にあるのは、「一軍登録を抹消した日から起算して10日間は一軍に再登録はできない」という決まり事です。

投げ抹消の例としては、先発投手が登板のために一軍登録された翌日に登録抹消されるケースが挙げられます。

投げ抹消の事例:石川雅規投手が先発した翌日に抹消している。

投げ抹消のメリット

ヤクルトのベテラン・石川雅規投手

「投げ抹消」には以下のメリットがあります。

  • 登板間隔を空けてコンディションを整えられる
  • 若手投手の故障回避
  • 一軍登録枠を有効活用できる
  • 外国人枠を有効活用できる

登板間隔を空けられる

通常の中6日ローテに比べて、投げ抹消による中10日ローテでは登板間隔を空けられるため、投手にとって休養や調整にあてる時間が長くなります。

例えば、体が完全にできていない若手投手や体力の落ちてきたベテラン投手の登板間隔を空けてコンディションを整えられます。

実際に、2021年のヤクルトでは先にあげた奥川恭伸投手(当時20歳)や高橋奎二投手(当時24歳)を中10日ローテで運用しました。その結果、日本シリーズでは奥川がクライマックスシリーズ、高橋が日本シリーズでそれぞれ完封勝利をあげるなど、ここ一番の場面で結果に結びつきました。

一軍登録枠・外国人枠の有効活用

出場選手登録人数の制限、いわゆる「一軍登録枠」や「外国人枠」を有効活用できます。

2022年の規定では出場選手登録について、以下の制限があります(2021年と2022年はコロナ特例で従来より登録枠が増えている)。

  • 出場選手登録:31人(ベンチ入りは26人)
  • 外国人選手:5人以内(ベンチ入りは4人)

先発投手を投げ抹消をすることによって、その投手の分だけ多くの選手を登録できます。

例えば、リリーフ投手を多く一軍登録しておくことで、リリーフ投手を休ませながら戦うなどの戦法をとれるでしょう。

外国人選手については先発投手を登録抹消することによって、多くの外国人投手を先発させる運用が昔から見られています。

投げ抹消のデメリット

「投げ抹消」を運用するには、以下のデメリットがあります。

  • 先発投手の枚数が必要
  • 登板機会、投球回数の減少
  • FAに必要な一軍登録日数が不足する

先発投手の枚数が必要

投げ抹消をするには先発投手の枚数、頭数が必要です。

一般的な中6日ローテだと先発ローテは6人で戦いますが、中10日ローテとなると必然的に先発ローテの人数が求められます。

投げ抹消の戦術を採用するには、先発投手の整備が必要になります。

登板機会、投球回数の減少

投げ抹消によって中10日ローテを組むことで先発投手の登板機会および投球回数が減少します。

例えば、1ヵ月30日間を中6日ローテで回すと、一般的に4度の先発登板機会があります。一方、中10日ローテでは3度の先発登板機会となってしまいます。

先発投手の登板機会は選手の年俸や評価に直結するので、働き盛りの投手にとっては投げ抹消は得策ではないでしょう。

FAに必要な一軍登録日数が不足する

投げ抹消を繰り返していると、一軍登録日数が少なくなってしまいます。

NPBのFA制度は一軍登録日数が取得条件となっており、145日以上一軍登録されることで1シーズンに換算され、それが一定の年数に達するとFA権を取得できます。

また、「1軍最低保証年俸」という考え方もあり、選手によっては一軍登録日数が不足することは年俸に直結することにもなりかねません。

先発投手は1週間に1度の登板機会であるものの、その登板でチームにパフォーマンスをもたらします。

そのため、一軍登録日数の不足が選手の権利を奪ってしまうという見方もされてしまいかねません。

投げ抹消で新しい先発ローテの形ができるか?

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投げ抹消の考え方自体は古くからプロ野球で採用されていましたが、特にここ数年はコロナ特例による一軍登録枠の増加によって見直されています。

2021年のヤクルトでは若手の奥川恭伸、高橋奎二やベテランの石川雅規が投げ抹消によってパフォーマンスを存分に発揮しました。

他球団を見渡しても、ロッテ・佐々木朗希など次代を担う若手スター選手が投げ抹消によって肩の消耗を抑えながら育成するシステムが一般的です。

投げ抹消による中10日ローテで活躍している投手が将来どのような大投手に成長するのか、注目していきましょう。

脚注

2022/05/05